「教則本に書いてある通り、パーツから10cm離して吹いているのに、なぜか表面がザラザラになる…」
「垂れるのが怖くて慎重に塗っていたら、いつまで経ってもツヤが出ない…」
もしかして、定規で距離を測りながら塗装していませんか?
エアブラシ塗装において「10cm離す」「濃度は2倍」といった数値を丸暗記することは、失敗への近道です。部屋の湿度、エアコンの風向き、コンプレッサーの気圧によって、「正解の距離」は毎秒変化するため、暗記で解決は難しい現実があります。もっと簡単に、理屈で解決してみましょう。
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プロのモデラーは、定規なんて使っていません。彼らが見ているのはたった一つ、「パーツ表面の塗膜が、今どうなっているか」だけ。
この記事では、教科書的な数値はいったん忘れ、自分の目で見て判断できる「オートフォーカス塗装術」を伝授します。この理屈さえ頭に入れば、どんな塗料でも、どんな環境でも、ムラなくキレイな仕上がりを手に入れることができます。
なぜマニュアル通りの「距離と濃度」でも失敗するのか?
多くの入門書には「距離は10cm程度、塗料は溶剤と1:2」などと書かれています。もちろん、これは間違っていません。標準的な環境下での「目安」としては正しいのです。
しかし、現実はどうでしょうか。
- 乾燥した冬の日と、ジメジメした梅雨の日では、塗料の乾燥速度がまるで違います。
- コンプレッサーのパワー(気圧)が弱ければ、10cm離しただけで塗料は霧散してしまいます。
- メタリックカラーとソリッドカラーでは、最適な濃度も変わります。
- 溶剤を少し入れすぎてシャバシャバな塗料と濃いめな塗料で塗り方は全く異なります。
つまり、「入力(距離・濃度)」を固定しても、環境が変われば「出力(仕上がり)」は変わってしまうのです。
重要なのは、入力数値を守ることではなく、出力結果(塗膜の状態)を見ながら、リアルタイムで自分の手を調整すること。これが「上手い人」の脳内で起きている処理です。
すべての失敗は「距離×速度×濃度」の方程式で説明できる
塗装の失敗原因は、魔法でも運でもありません。すべて物理現象として説明がつきます。
目の前のパーツが「理想通り」になっていない時、必ず以下のパターンのどれかに当てはまっています。ご自身の症状と照らし合わせてみてください。
パターン1:表面がザラザラ、艶がない、白っぽくなる(梨地)
塗装面が粉っぽく、手で触るとザラッとしている状態です。
- 【原因A】距離が遠すぎる
塗料の粒子がパーツに届く前に空中で乾いてしまい、「乾いた粉」として降り注いでいます。 - 【原因B】動かすスピードが速すぎる
塗料が乗る量が少なすぎて、粒子同士が繋がらず、濡れた状態を作れていません。 - 【原因C】塗料が硬すぎる(濃い)
粘度が高すぎるためパーツ届くまでに大きな粒子が空中で乾き、プツプツと表面に乗っている状態で滑らかに広がりません(レベリング不足)。原因Aの粒子が大きい版といった具合です。
【処方箋】
勇気を持って、あと3cm近づいてください。または、もう少しゆっくり動かしましょう。
それでも改善しない場合は、うすめ液を足して塗料を緩くします。
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パターン2:ベチャッとしている、液垂れができる
塗料が波打ったり、重力に負けて垂れたり、パーツの角(エッジ)に溜まっている状態です。
- 【原因A】距離が近すぎる
風圧で塗料が吹き飛ばされています。 - 【原因B】動かすスピードが遅すぎる(止まっている)
一箇所に塗料が乗りすぎて、許容量(表面張力の限界)を超えています。 - 【原因C】塗料が緩すぎる(薄い)
粘度が低く、水のようになっているため、表面張力を維持できず流れる。
【処方箋】
少し離れるか、ハンドピースを動かす速度を上げてください。
普段より離しているのに垂れる、または色が全然乗って無い、下地が透けているのに流れるという場合は、明らかに希釈のしすぎ(溶剤で薄めすぎ)です。
【重要テクニック】元々サラサラな塗料はどうする?
ここで一つ、中級者へのステップアップ技術です。
アルコール系塗料やインク、あるいは希釈済みの塗料など、「これ以上濃く(硬く)できないのに垂れやすい塗料」を使う場合はどうすればいいでしょうか?
答えは、「ニードルを引く量(トリガー)を絞る」ことです。
距離やスピードで解決しようとせず、ハンドピースから出る「塗料の絶対量」を物理的に減らします。トリガーをほんの1ミリしか引かない状態で、フワッと霧のように吹き付ければ、シャバシャバな塗料でも垂れずに定着させることができます。
ダブルアクションのハンドピースを使っているなら、ぜひこの「微細な指のコントロール」を練習してみてください。
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目指すべきゴールは「濡れ感(ウェット)」の維持
では、正解の状態とは何か?
それは、ザラザラ(乾燥)とタレ(過剰)の中間にある、「表面が水に濡れたようにテラッと光る瞬間」です。
吹き付けた瞬間、塗料の粒子同士がくっつき、一つの膜になります。これを専門用語で「レベリング」と呼びます。この「濡れている状態」をキープしたまま、筆で塗り広げるような感覚でハンドピースを動かしていくのです。
でも濡れ感をキープしたまま…というとハードルが高いですよね。慣れてくるまでは足りなかったなと思ったら足す、という足し算で進めていくので十分です。塗りすぎてしまっては引き算は剥離という難しい作業になってしまうので、足し算で完結できるところから目指しましょう。
実践練習:自分の目で「濡れ感」を見極めるスプーン・ドリル
理屈がわかったところで、あなたの目と手をリンクさせる練習を行いましょう。
高価なキットはいりません。100円ショップのプラスチックスプーンや、不要なプラ板を用意してください。
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STEP 1:あえて「失敗」して境界線を知る
まずは、わざと遠く(20cmくらい)から吹いてみてください。表面が白っぽくザラザラになるのを目視します。「これが遠すぎる状態か」と脳にインプットします。
次に、極端に近づいて(1cmくらい)、一瞬でベチャッと垂れる瞬間を確認します。「ここまでやるとダメなんだ」という限界値を知れば、恐怖心はなくなります。
STEP 2:「ツヤ」が出る瞬間をロックオンする
ザラザラの状態から、吹きながら少しずつスプーンに近づいていきます。
ある距離に来た時、フワッとした粉が、「ツヤッとした濡れ」に変わる瞬間が必ず来ます。
その瞬間を見逃さないでください。
「あ、今ツヤが出た!」
そう思ったら、その距離とハンドピースの引き加減を維持したまま、手を横にスライドさせます。
練習のコツ:ハンドピースを見ない
初心者の多くはハンドピースの先を見ていますが、それは間違いです。
見るべきなのは、「塗料が着弾しているパーツの表面」です。デスクライトの光をパーツに反射させ、その反射具合(濡れ具合)を凝視しながら塗装しましょう。
まとめ:頭で理解すれば、手は自然に動く
エアブラシ塗装に「絶対の数値」はありません。
しかし、「状態の正解」は常に一つです。
「何センチ離そう?」と念じるのは今日で終わりにしましょう。
これからは、目の前のパーツと対話し、「今、ツヤが出ていないから少し近づこう」「垂れそうだから少し早く動かそう」と、見たままに反応する。これができるようになれば、あなたはもうステップアップしています。
この感覚を掴んだら、最後に道具をきれいに洗浄して、次の作品作りに備えましょう。正しい洗浄もまた、次回の成功への第一歩です。
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