「一生懸命作ったはずなのに、なぜかパッケージ写真のような重厚感が出ない……」
戦艦プラモデルに初挑戦した多くの人が、完成品を前にして抱くこの違和感。その正体をご存知でしょうか?
それは技術不足ではありません。多くの場合、原因は「塗膜の厚み」にあります。
1/700スケールという極小の世界において、メーカーが金型技術の粋を集めて彫り込んだ「モールド(溝や彫刻)」は、筆塗りや缶スプレーの厚い塗料によって一瞬で埋まってしまいます。ディテールが死ぬことで、作品は途端に「おもちゃ」に見えてしまうのです。
今回は、戦艦プラモデル特有の難しさを道具で解決し、さらには「黒立ち上げ」という塗装技法を使って接着剤のはみ出しすら無かったことにする、逆転の発想による製作ガイドをお届けします。
なぜ「初心者こそエアブラシ」なのか?戦艦模型特有の「細かさ」との戦い
戦艦プラモデル、特に主流である1/700スケールは、カーモデルやガンプラとは比較にならないほど「パーツが細かく、モールドが繊細」です。
ピンセットで掴み損ねたら二度と見つからないような対空機銃、複雑怪奇な艦橋構造物。これらに、粘度の高い塗料を筆でベタッと塗るとどうなるか。答えは明白です。精密なディテールが、塗料の「もっさり感」の下に埋没します。
ここがポイント!
エアブラシは、塗料を霧状にして吹き付けます。その塗膜の薄さは、筆塗りの数分の一。どれだけ重ねてもモールドを潰すことなく、シャープな造形を維持できるのです。
「エアブラシは上級者の道具」と思われがちですが、実は「初心者の粗を隠し、ディテールを守ってくれる守護神」です。特に軍艦色のような単色塗装が多い戦艦模型において、その恩恵は計り知れません。
また、コスト面でも長期的に見れば缶スプレーより安上がりになるケースが多々あります。以下の記事でも解説していますが、軍艦色はメーカーごとに微妙に色が違うため、缶スプレーを買い揃えるよりも調色できるエアブラシの方が経済的なのです。
筆塗りや缶スプレーとの詳細な比較については、こちらの診断記事も併せてご覧ください。
組み立ての常識を疑え。「塗装しながら組む」は失敗のもと
説明書通りに「パーツを切る→塗る→接着する」という工程を踏んでいませんか?
実はこれが、初心者が陥る最大の失敗トラップです。
塗装した面に接着剤がつくと、塗料が溶けて汚くなります。極小パーツの接着時に指が触れ、指紋がつくこともあります。これらを防ぐためのプロのアプローチは「アッセンブル・ファースト(組み立て優先)」です。
- 船体、艦橋、煙突、主砲……これらを可能な限り接着して組み上げます。
- リノリウム甲板など、どうしても筆が入らない場所だけは例外的に先塗りしますが、基本は「すべて形にしてから」です。
「そんなことをしたら塗り分けできないのでは?」と思われるかもしれません。そこで登場するのが、次項で紹介する最強のメソッドです。
接着剤のはみ出しも無かったことに。「黒立ち上げ」の魔法
プラスチック特有の「軽さ」を消し、鋼鉄の重量感を演出する。さらに、組み立て時についた接着剤のはみ出しや、ゲート跡の傷をすべて「無かったこと」にする。
それが「黒立ち上げ(ブラック・ベーシング)」です。
手順1:全体を真っ黒に染め上げろ
組み上がった戦艦を、まずは「マホガニー(こげ茶)」や「黒」のサーフェイサー、あるいは塗料で真っ黒に塗りつぶします。この段階で、接着剤の跡や細かな傷は黒い闇の中に消え去ります。
下地の希釈加減は仕上がりを左右します。以下のチェックリストを参考に、適切な濃度を狙ってください。
手順2:木甲板・リノリウムを一気に吹く
黒い下地の上から、甲板色(タンやリノリウム色)を吹き付けます。黒地の上に発色させることで、単なる茶色ではなく、使い込まれた床のような深みが出ます。
手順3:マスキングこそが戦艦模型のクライマックス
ここが唯一の頑張りどころです。甲板部分をマスキングテープで覆います。
「面倒くさい」と感じるかもしれませんが、ここさえ乗り切れば勝利は確定します。細切りのテープをピンセットで貼り付けていきましょう。
手順4:軍艦色を「置く」ように吹く
最後に、船体色(軍艦色)を吹き付けます。ここで重要なのは、ベタ塗りで真っ白(真っグレー)にしないことです。
下地の「黒」をうっすらと残すように、パネルラインや構造物の影になる部分を避けて、中心部分に色を乗せていきます。これを「グラデーション塗装」と呼びます。
マスキングを剥がした瞬間、そこにはプラスチックの塊ではなく、鋼鉄の巨艦が現れるはずです。
初心者に捧ぐ「最初の1隻」と「必須投資リスト」
「でも、エアブラシって高いんでしょう?」
確かに初期投資はかかります。しかし、失敗してキットをいくつもゴミにするコストや、何より「納得のいく作品ができないストレス」を考えれば、最もコストパフォーマンスの高い投資です。
ハンドピースの選び方
戦艦模型は細かい迷彩塗装などを除けば、全体を均一に吹く作業がメインです。しかし、細部への吹き付けも考慮すると、操作性の良い「ダブルアクション」一択です。
揃えるべき周辺アイテム
本体以外にも、塗装ブースやクリーナーなどが必要です。初心者が最初に揃えるべき「無駄のないリスト」はこちらにまとめています。
まとめ:道具に投資することは、成功を買うこと
戦艦プラモデルは、他のジャンルに比べて「難易度が高い」と言われがちです。しかし、その難しさの半分以上は、適切な道具を使っていないことに起因しています。
筆を捨て、エアブラシを握りましょう。
そして、黒立ち上げという「大人の塗り絵」を楽しんでください。
マスキングテープを剥がし、シャープなモールドと重厚な陰影が現れた瞬間の感動。
それこそが、戦艦モデラーだけが味わえる至高の体験なのです。

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