こんにちは、エムです。
模型塗装のステップアップを目指す中でクリアコートについて悩むことがあります。
- アクリルで塗った上から、もっと頑丈なラッカークリアで保護したい
- キャラクターモデルの繊細な模型塗装を、ツヤ消しクリアでしっとり仕上げたい
- デカールを貼った上からラッカークリアコートしたい
そんな風に考えたことはありませんか?
しかし、多くのモデラーを悩ませるのが、模型塗料の重ね塗りの「相性」の問題です。特に「弱い塗料(アクリル)の上に強い塗料(ラッカー)を塗ると、下地が溶ける」という鉄則は、理想の仕上げを阻む大きな壁となります。
この記事では、その常識を覆し、アクリル塗料で塗装した上から、安全にラッカー系クリア(ツヤあり・ツヤ消し)をオーバーコートするための全知識を、プロの目線で解説します。模型塗装における塗料の相性の基本から、需要の高いアクリル→ラッカーの組み合わせ、デカール保護の注意点まで、失敗しないためのノウハウを解説します。
なぜアクリルの上にラッカーを?模型塗装における塗料の使い分け
本題に入る前に、なぜこの「禁断の重ね塗り」に需要があるのか、模型塗装における模型塗料の使い分けの観点から整理しましょう。理由は大きく分けて3つあります。
- 塗膜の強度: ラッカー塗料はアクリル塗料に比べて塗膜が硬く、傷や摩擦に強いという大きなメリットがあります。研ぎ出しに耐え強度があるのでカーモデルのボディの艶出しや、頻繁に手に触れるアクションフィギュアや鉄道模型など、高い耐久性が求められる模型塗装において最終保護膜としてラッカークリアは非常に有効です。
- 質感のコントロール: ラッカー系のクリア塗料は、高品質な光沢(ツヤ)や、しっとりとした上品なツヤ消しなど、質感のバリエーションが豊富です。アクリル塗料で基本塗装を終えた後、ラッカークリアで最終的な質感を決定したいというニーズは非常に高いと言えます。
- 作業性の両立: アクリル塗料は、臭いが比較的マイルドで乾燥も速く、修正も容易なため、基本塗装に広く使われています。その手軽さを活かしつつ、仕上げの強度と質感だけをラッカーに頼る、というハイブリッドな塗装フローは、模型塗装において非常に合理的です。
塗料 重ね塗り 相性の常識を破る鍵「砂吹き」をマスターせよ
筆塗りでアクリルの上からラッカーを塗れば、溶剤と摩擦で下地は間違いなく侵されます。しかし、エアブラシを使えば、この塗料 重ね塗り 相性の問題を回避できます。その核心技術が「砂吹き(ミスト吹き)」です。
砂吹きとは、エアブラシと対象物の距離を離して塗装する技法です。霧状の模型塗料が対象物に到達する前に溶剤がある程度揮発し、半乾きの塗料粒子として付着します。これにより、下地塗膜への攻撃性を最小限に抑えることができるのです 。
この砂吹きによって、まずアクリル塗膜の上にラッカー塗料の薄い「バリア層」を形成します。このバリア層が盾となり、その後の本格的なクリア塗装から下地を保護してくれるのです。
【実践】アクリル→ラッカークリアの砂吹き完全手順
ここでは、光沢仕上げ(ツヤあり)を想定した具体的な手順を解説します。
- 下地の完全乾燥(最重要!): アクリル塗料で塗装後、最低でも24〜48時間は完全に乾燥させます。乾燥が不十分だと、砂吹きをしても溶剤が下地に浸透しやすくなり、トラブルの原因となります。
- クリア塗料の準備: ラッカー系クリア塗料は、通常の希釈でOKです(塗料1:うすめ液1.5程度)。
- エアブラシの設定: エア圧はやや低め(0.1MPa前後)に設定します。
- 砂吹き(1〜3回目): エアブラシとパーツの距離を20cmほど離し、ボタンを少しだけ引いて「パラパラ」「ザラザラ」と塗料の粒子を乗せるイメージで、パーツ全体に薄く吹き付けます。決して濡れたようなツヤを出そうとせず、表面がうっすらと白っぽくなる程度で止めて乾かすのがコツです。
- 乾燥: 各砂吹きの間は、5分〜10分程度の乾燥時間を設けます。ドライヤー等で軽く温めて時短すれば1分程度で済ませることも可能です。
- 中間コート(4〜5回目): 砂吹きでバリア層ができたら、少し距離を近づけ(15cm程度)、砂吹きと本番のウェットコートの中間くらいの感覚で、薄くクリアを重ねます。表面にうっすらとツヤが出るか出ないか、という状態を目指します。
- ウェットコート(本塗装): 中間コートで塗面が安定したら、いよいよ本塗装です。通常の距離(10cm前後)で、パーツ表面が濡れて均一なツヤを放つ「ウェットコート」を行います。焦らず、数回に分けて塗り重ねることで、厚みのある美しい光沢塗膜が完成します。
ツヤ消しクリアの場合も基本は同じですが、ウェットコートで厚塗りしすぎるとツヤが出てしまうことがあるため、砂吹きと中間コートを主体に、しっとりとした質感が得られるまで薄く塗り重ねていくのが良いでしょう。
ケーススタディ:デカール保護と「白濁」トラブルの回避
水転写デカールを貼った上からのクリアコートは、多くのモデラーが挑戦する模型塗装の工程ですが、最もトラブルが起きやすい場面でもあります。特に注意すべきが、クリア層が白く濁ってしまうカブり現象です。
白濁、カブりの最大の原因は「水分」
カブりの主な原因は、デカールを貼った際に使用した水分やデカール軟化剤(マークセッター、マークソフター)が、デカールの下や縁に残っていることです 。
この水分が完全に乾燥しないうちにラッカークリアを吹き付けてしまうと、揮発性の高いラッカー溶剤が急速に気化する際の冷却効果(気化熱)で、塗膜の表面や内部で空気中の水分が結露します。このミクロの水滴が塗膜内に閉じ込められることで光が乱反射し、白く濁って見えてしまうのです。
デカールコートで絶対に失敗しないための鉄則
- 乾燥こそすべて: 水転写デカールを貼った後は、焦ってはいけません。最低でも24時間、マークソフターなどを使用した場合は48〜72時間は、風通しの良い場所で徹底的に乾燥させましょう [2]。見た目が乾いていても、デカールの下には水分が残っています。可能であれば前もってデカールの下に残った水を、綿棒を転がすようにして出しておけば乾燥不足を予防できます。
- 環境の確認: 塗装時の湿度が高い(80%以上)と、白濁のリスクは格段に高まります。雨の日や梅雨の時期の塗装はなるべく避け、エアコンの除湿機能などを活用して、環境をコントロールすることが重要です。ドライヤーで少し予熱として温めてから塗装することで、水分が飛びやすくカブりを予防することもできます。
- 砂吹きから始める: デカール保護の際も、基本は前述の砂吹きテクニックと同じです。特にデカールは溶剤に弱いため、最初の数回は徹底して「遠くから、薄く、乾かしながら少しずつ」を心がけ、慎重にバリア層を形成してください。
もし白濁してしまった場合は、慌てずに再度上からラッカークリアを薄くウェットコート、または塗料ではなく薄め液だけを表面にふわっと乗せていくようにエアブラシで吹き付けると、濁りが解消されることがあります。これは、上から吹いたクリアの溶剤が、白濁した層をわずかに溶かし、閉じ込められた水分を追い出すことで再透明化するためです。ただし、根本的な解決策ではないため、まずは白濁させないための乾燥と環境管理を徹底しましょう。
よくある失敗例とその対処法
模型塗装では、模型塗料の重ね塗の 相性を理解していても、失敗はつきものです。ここでは代表的な失敗例と対処法を表にまとめました。
| 失敗例 | 原因 | 対処法 |
|---|---|---|
| 下地のアクリルが溶けた・縮んだ | 下地の乾燥不足、砂吹きが不十分なままウェットコートした、一度に厚塗りしすぎた。 | 完全に乾燥させた後、目の細かいサンドペーパー(1500番〜)で表面を平滑にし、再度砂吹きからやり直す。被害が甚大な場合は、溶剤で全て剥がして再塗装。 |
| 表面がザラザラのまま | 砂吹きだけで終わってしまった、またはウェットコート時の塗料が濃すぎた、距離が遠すぎた。 | 砂吹きの回数を減らし、ウェットコートに移行する。ウェットコート時の希釈率を少し高め(薄め)にし、距離を近づけて塗装する。 |
| クリア層にヒビが入った(クラック) | 下地塗料とクリア塗料の乾燥・収縮率の違い。特に下地が乾燥不十分な場合に起こりやすい。 | 予防が第一。下地のアクリル塗料を十分に乾燥させることが最も重要。発生してしまった場合は、基本的に修正は困難なため、剥離して再塗装となる。 |
まとめ:塗料の相性を理解し、模型塗装の表現を広げよう
「アクリルの上にラッカー」という重ね塗りは、決して不可能なテクニックではありません。模型塗料の特性と、正しい知識・手順、そして何よりも「焦らず、完全に乾燥させる」という基本を守ることで、誰でも安全に実践することができます。
- 下地のアクリルは最低24〜48時間乾燥させる
- ラッカークリアの最初の数回は「砂吹き」でバリア層を作る
- デカールを貼った後は、さらに念入りに48時間以上乾燥させる
この3つの鉄則を守るだけで、あなたの模型塗装作品の耐久性と質感は劇的に向上します。重ね塗りの相性による失敗を恐れずに、ぜひこの「禁断のオーバーコート」に挑戦し、ワンランク上の仕上がりを手に入れてください。

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