完璧な塗装面、美しいクリアパーツの輝き。
「よし、これで完成だ!」と高揚感に包まれた数分後、ふとパーツを見ると……。
「……白い? なぜ曇っているんだ!?」
モデラーなら誰もが一度は経験する悪夢、それが「白化(カブリ)」現象です。数千円のキットと数十時間の作業が、たった一つの化学反応で台無しになったかのような絶望感。筆者もかつて、クリアーコートした愛車(のプラモデル)が霧の中に消えていくのを見て、膝から崩れ落ちた経験があります。
しかし、諦めないでください。それはあなたの腕が悪いのではありません。「水分」と「温度」という物理法則のいたずらなのです。
今回は、白化のメカニズムを科学的に解き明かし、ドライヤー1本でできるプロ級の防止術、そして「密閉容器」を使った起死回生の緊急リカバリー秘奥義を伝授します。
敵を知る:なぜ模型は「白化」するのか?
対策を講じる前に、まずは敵の正体を知りましょう。模型製作における白化は、主に2つのパターンに分類されます。
パターンA:塗装の「カブリ」(Blushing)
湿度が高い日(梅雨や夏場)に起こりやすい現象です。エアブラシや缶スプレーから放出された塗料に含まれる溶剤が、急激に気化する際に周囲の熱を奪います(気化熱)。
すると、パーツ表面の温度が急激に下がり、空気中の水分が結露して塗膜に取り込まれてしまいます。この水分が塗料と混ざり合い、乾燥後に微細な気泡や凸凹となって白く濁って見えるのです。
このあたりの「希釈と環境」の関係性については、過去の記事でも詳しく解説しています。粘度調整の科学を知りたい方は、こちらも併せてご覧ください。
パターンB:瞬間接着剤による白化
もう一つの敵は、クリアパーツ接着時によく起こります。瞬間接着剤(シアノアクリレート系)は、空気中の水分と反応して硬化しますが、この時に発生するガスが周囲に飛散し、再び水分と反応して白い粉(ポリマー)となって付着する現象です。
【塗装編】ドライヤーで湿気を制圧するプロの防止術
「湿度の高い日は塗装するな」というのは正論ですが、週末モデラーにとって天気を選べない日もあります。そこで役立つのが、どこの家庭にもある「ドライヤー」です。
パーツを「人肌」に温める逆転の発想
カブリの原因は「気化熱による温度低下」と「結露」でしたね。ならば、下がる分を見越して、あらかじめパーツの温度を上げておけば良いのです。
- 塗装直前のパーツに、少し離した位置からドライヤーの温風を当てます。
- パーツが「ほんのり温かい(人肌程度)」になるまで温めます。※熱しすぎによる変形に注意!
- その状態ですぐに塗装を行います。
これだけで、塗料が気化する際の温度低下を相殺し、結露(カブリ)を劇的に防ぐことができます。また、塗装後も遠くから軽く温風を送ることで、表面の乾燥を促進させ、水分が入り込む隙を与えません。
もちろん、エアブラシの基本動作がしっかりできていることが前提です。「そもそもちゃんと吹けているか不安」という方は、基礎講座でおさらいしておきましょう。
【接着編】クリアパーツを曇らせない「脱・瞬間接着剤」のすすめ
クリアパーツ(カーモデルのライトや、ガンプラのセンサーなど)の接着に、普通の瞬間接着剤を使っていませんか? それはロシアンルーレットのようなものです。
白化のリスクをゼロにするための最適解。それは「ハイグレード模型用(セメダイン)」を使用することです。
- 水性ウレタン系:溶剤を含まないため、パーツを溶かしません。
- 硬化しても透明:乾燥後もクリアな状態を維持します。
- 白化しない:ガスが発生しないため、周囲が白くなりません。
「瞬間」的な接着力はありませんが、クリアパーツの固定には最強のツールです。道具選び一つで、失敗の確率は劇的に下がります。
【裏技】諦めるのはまだ早い!密閉容器を使った「シンナー蒸らし」
さて、ここからが本題です。
「もう白化してしまったんだよ! 今さら予防策を聞いても遅い!」
そんな絶望の淵にいるあなたへ。メーカーの公式サイトにはまず載っていない、現場のモデラーが密かに使っている「緊急リカバリー術」を伝授します。
塗装面が湿気で白くザラついてしまった場合、「シンナー蒸らし(溶剤蒸らし)」という手法で、魔法のように透明度を取り戻せる可能性があります。
※この方法はラッカー塗装(溶剤系アクリル樹脂塗料)に有効です。
※火気厳禁です。必ず換気の良い場所で行ってください。
※自己責任において実施してください。
用意するもの
- 塗装したパーツが入るサイズの密閉できる容器(タッパーなど)
- ティッシュペーパー
- 塗装に使用した溶剤(ラッカーうすめ液など)
リカバリーの手順
- 準備:タッパーの中に、ティッシュペーパーを折りたたんで入れます。
- 溶剤の塗布:そのティッシュに、溶剤(うすめ液)を数滴染み込ませます。ビチャビチャにする必要はありません。
- パーツの配置:
【最重要】白化したパーツをタッパーに入れますが、絶対に溶剤のついたティッシュに触れさせないでください。パーツの下に台座を置くなどして、ティッシュと距離を取ります。 - 密閉と放置:蓋をしっかり閉めて密閉します。これにより、容器内が溶剤のガス(蒸気)で充満します。このまま丸1日(24時間)放置します。
- 確認と乾燥:24時間後、蓋を開けてみてください。白化が消えていれば成功です! そのまま触らず、しばらく自然乾燥させて完全に硬化を待ちます。
なぜこれで直るの?
容器内に充満した溶剤の蒸気が、白化してザラついた塗膜の表面だけを極めて穏やかに溶解(リセット)させ、平滑にならすことで透明度を復活させるテクニックです。
もし軽度な白化であれば、この方法以外にも「リターダーシンナー(遅延剤)を遠くから砂吹きする」方法や、「コンパウンドで磨き直す」方法もあります。塗料の特性や重ね塗りの相性については、以下の記事も参考にしてください。
まとめ:水分と温度をコントロールして、理想の仕上がりを
模型製作における「白化」は、決してあなたの技術不足の証明ではありません。環境要因によるただの物理現象です。
- 塗装前はドライヤーでパーツを温め、結露を防ぐ。
- クリアパーツには専用の接着剤を使い、ガスの発生を断つ。
- 万が一白化しても、「シンナー蒸らし」で冷静に対処する。
この3つの武器を持っていれば、もう梅雨の塗装も、クリアパーツの接着も怖くありません。

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