模型店の塗料コーナーに立った時、こう思ったことはありませんか?
「なんでグレーだけでこんなに種類があるんだ!?」と。
特に艦船模型用の「軍艦色」。瓶には「呉」「佐世保」なんて地名が書いてあるし、見比べても微妙な違いしかわからない……。
でも、実はこの「微妙な違い」こそが、作品のリアリティを劇的に変える魔法のスパイスなのです。
今回は、艦船モデラーがこだわる「日本海軍・4大工廠(こうしょう)の色味」の違いと、それを「最も安く、かつ最高クオリティで再現する唯一の方法」について熱く語ります!
この記事でわかること
- 4つの工廠色(横須賀・呉・佐世保・舞鶴)の特徴と見分け方
- なぜ「缶スプレー」を使い続けると1万円損するのか?
- エアブラシ導入が「最高のコストダウン」になる理由
1. なぜ「工廠」によって色が違うのか?
日本海軍の艦艇は、主に横須賀、呉、佐世保、舞鶴の4つの海軍工廠(こうしょう=造船所)で建造・修理されていました。
当時、塗料の調合比率はある程度決まっていましたが、「地元の顔料」や「気候風土」、「調合担当者のさじ加減(!)」によって、工廠ごとに独自のグレーが定着してしまったのです。
つまり、「どの工廠で作られた(修理された)船か」によって、塗るべきグレーが決まるということ。まずは簡単にそれぞれの色の性格を見てみましょう。
2. 4大軍艦色、それぞれの特徴と「性格」
① 横須賀海軍工廠(軍艦色2)
【特徴】青みを感じる、スマートなグレー
東京湾に位置する横須賀。比較的明るめで、ほんのり「青み」を含んでいるのが特徴です。空母「信濃」や戦艦「比叡」などが有名です。
② 呉海軍工廠(軍艦色1)
【特徴】黄褐色寄りの、THE・スタンダード
戦艦「大和」の故郷、呉。横須賀に比べると少し「黄色・茶色」がかった暖色系のグレーです。最もポピュラーな軍艦色と言えます。
③ 佐世保海軍工廠(佐世保海軍工廠色)
【特徴】最も暗い、鉄の塊感
4つの中で「一番暗いグレー」です。黒に近い重厚なグレーで、光を吸い込むような威圧感があります。軽巡「矢矧」や駆逐艦「雪風」などの引き締まった表現に最適です。
④ 舞鶴海軍工廠(舞鶴海軍工廠色)
【特徴】最も明るい、ハイコントラスト
4つの中で「一番明るいグレー」です。白っぽく、軽快な印象を与えます。駆逐艦「島風」などが代表格です。
さて、ここからが本題です。
あなたは、これら4つのグレーを再現するために、新しい「缶スプレー」を買いに行こうとしていませんか?
ちょっと待ってください。その方法は、お財布にとっても作品のクオリティにとっても、実は一番の遠回りかもしれません。
3. 気がつけば1万円の損!?缶スプレーの「隠れコスト」
「次は大和を作るから呉の缶スプレーを買おう」
「次は雪風だから佐世保の缶スプレーを買わなきゃ」
こうやってキットを買うたびに専用のスプレー缶を買い足していくと、お財布事情はどうなるでしょうか?
ここで、残酷な現実(コスト比較)を見てみましょう。
【塗料1色あたりのコスト比較】
| 缶スプレー | 約700円 |
| 塗料瓶(ビン) | 約150円 |
その差、1本あたり約550円。
たった1本なら「まあいいか」で済むかもしれません。しかし、艦船模型を趣味にすると、4つの軍艦色に加え、艦底色、リノリウム色、甲板色、カッター(ボート)の色……と、必要な色はすぐに増えていきます。
仮に、手元に15色揃えるとしましょう。
- ● 缶スプレーの場合:700円 × 15本 = 10,500円
- ● 塗料瓶の場合:150円 × 15本 = 2,250円
いかがでしょうか。
同じ色を揃えているだけなのに、気がつけば約8,000円〜1万円近い差額が生まれています。
1万円あれば、エントリーモデルのエアブラシセットが買えてお釣りがきます。
さらに「缶スプレー」には、コスト以外にも構造的なデメリットがあります。詳しくは以下の記事で「缶スプレー vs エアブラシ」の診断を行っています。
➡【塗装診断】エアブラシ・缶・筆塗り、最適解はハイブリッド?
4. エアブラシなら「調色」で無限のグレーが作れる
ここでエアブラシの登場です。
エアブラシ最大のメリット、それは「自分で色が作れる(調色)」こと。実はこれが、最強のコストダウン術なのです。
わざわざ「◯◯工廠専用色」をすべて買い揃える必要はありません。
手元に以下の基本色があれば、どんな軍艦色でも再現できます。
- ニュートラルグレー(基本のグレー)
- 白・黒(明度の調整)
- 青・赤・黄(色味の調整)
たったこれだけです。
基本のグレーに、ほんの一滴の「青」を足せば横須賀色になり、ほんの一滴の「茶色(赤+黄)」を足せば呉色になります。もっと暗くしたければ黒を、明るくしたければ白を足すだけ。
これなら、わざわざ新しい塗料を買いに走る必要もありません。瓶入りの塗料はスプレー缶に比べて圧倒的に単価が安いため、長期的に見れば缶スプレー派とはコスト面でどんどん差がついていきます。
ただし、自分で色を作るには「適切な希釈(薄め方)」が必須です。色が濃すぎても薄すぎても失敗の元になります。
➡【永久保存版】エアブラシ希釈の「科学」と「失敗ゼロ」チェックリスト:気温・湿度別 粘度調整マニュアル
5. 薄い塗膜が「ディテール」を殺さない
コストだけではありません。仕上がりのクオリティも段違いです。
缶スプレーは粒子が大きいため、どうしても塗膜が厚くなりがちです。「色がイメージと違うから」と上から塗り直そうものなら、せっかくの繊細な艦船模型のモールド(彫刻)が塗料で埋まってしまい、のっぺりとしたおもちゃっぽい仕上がりになってしまいます。
一方、エアブラシは霧のように薄く吹き付けることができます。
「ちょっと青みが足りないから、上から青系グレーを薄く重ねよう」
こういった微調整(フィルタリング的な塗装)を何度繰り返しても、塗膜が薄いのでモールドが埋もれることはありません。
納得いくまでこだわった色を作れて、しかもディテールはパキッとしたまま。
ガンプラなどの他ジャンルでも、この「薄い塗膜」は大きな武器になります。
➡ガンプラ初心者こそエアブラシ!全塗装で作品が劇的に変わる5つの理由
6. まとめ:長期的な目線で「一石二鳥」を手に入れよう
たかがグレー、されどグレー。
この奥深い色味を追いかけるのに、毎回缶スプレーを買うのは正直もったいないです。
「初期投資はかかるけれど、長い目で見れば圧倒的に安く遊べて、しかも作品のクオリティはプロ並みに上がる」
エアブラシの導入は、まさに一石二鳥の賢い選択です。
あなたも「調色」という武器を手に入れて、メーカーの色に縛られない「俺だけの究極の軍艦色」を作ってみませんか?
「何から買えばいいかわからない」という方は、まずはこちらのアイテムリストを参考にしてください。


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